本日は、鼠径ヘルニアの手術治療に関する世界の動向について調べた研究を紹介します。
論文のタイトルは「An international survey of 1014 hernia surgeons: outcome of GLACIER
(global practice of inguinal hernia repair) study」
和文タイトル:「1014人のヘルニア外科医を対象とした国際調査:GLACIER(鼠径ヘルニア修復の世界的実践)研究の結果 」
Herniaという雑誌に2023年6月に掲載された論文です。(PMID:37310493)
【背景】
鼠径ヘルニア修復術は国際的に様々であるため、国間の実際の手術方法や差異について調べる必要がある。
[COMMENT] 確かに国間の差異は確かに気になるところ。
【方法】
質問紙ベースのオンライン調査。
(英国ヘルニア学会(BHS)、上部消化管外科学会(TUGSS)、Abdominal Core Health Quality Collaborative(ACHQC)を含む賛同団体、ソーシャルメディアなど)
[COMMENT] 記述疫学です。
【結果】
81カ国から合計1014人の外科医がアンケートに回答しました。
〇修復方法
98%の外科医がメッシュによる修復を選択しました。
〇手術アプローチの選択
鼠径部切開法:452 人(45.3%)、低侵襲手術:545 人(54.7%)
両側ヘルニアおよび前回の開腹手術後の再発ヘルニアが、低侵襲手術の最も一般的な適応でした。
〇腹腔鏡下手術の内訳
TAPP:276 人(27.7%)、TEP:192 人(19.3%)
〇鼠径部切開法の内訳
鼠径部切開法で行う場合、Lichtenstein法が最も多く行われていました(90%)
〇術後慢性疼痛
鼠径部切開法:5%、低侵襲手術:1%
【結論】
この調査により、鼠径ヘルニア修復術における国際的な実践の類似点と相違点、およびベストプラクティスガイドラインと比較した場合のいくつかの相違点、例えば局所麻酔を用いた修復術の割合の低さ、低侵襲修復術における軽量メッシュの使用などが明らかになりました。また、ヘルニア手術後の慢性疼痛の発生率、リスク因子、管理、ロボットヘルニア手術の臨床的および費用対効果など、今後研究すべきいくつかの重要な分野も明らかになりました。
[COMMENT]
鼠径部切開法と低侵襲手術の割合は内視鏡外科学会による国内調査の結果とほぼ同じです。ただ、国によってはコスト面の理由もあるはずなので、鼠径部切開法を選択する理由は日本とやや異なるんじゃないでしょうか。腹腔鏡手術の内訳に関してはTAPPの方が選ばれておりますが、予想より少なくて驚きました。鼠径部切開法はLichtenstein法が最も多く、これは日本と同じですね。
一番興味深いのはアプローチ別の慢性疼痛の発生率が鼠径部切開法の方が多かった事。この結果の信憑性はどれくらいだろうか。この研究に回答した医師は、経験10年以上が57.4%で、欧州と米国が58.6%を占めており、日本の平均的な状況とは離れています。また、鼠径部切開法は90%が鼠径管後壁にMeshを敷くLichtenstein法なので、腹膜前腔にMeshを敷くクーゲル法やダイレクトクーゲル法での慢性疼痛発生割合も気になるところです。
結論にもあるように、慢性疼痛の発生率やロボットによる鼠径ヘルニア手術など、今後の研究すべき課題が明かになった研究と言えます。