皆様こんちには、大阪うめだ鼠径ヘルニアMIDSクリニックです。
本日ご紹介する論文は、外科医の熟練度と術後疼痛の関連についての研究です。
タイトル「Influence of the learning curve on the immediate postoperative pain intensity after laparoscopic inguinal hernioplasty」
和訳すると「腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術の術後疼痛強度に及ぼす学習曲線の影響」
PMID:37577015(Google scholarでも見つけれます)
【はじめに】
鼠径ヘルニア修復術は世界中で最もよく行われる手術の一つである。
腹腔鏡下手術の経験が蓄積されるにつれ、腹腔鏡下手術は安全で効果的な選択肢として鼠径ヘルニアの治療にも広く用いられるようになった。
鼠径ヘルニア根治術を受ける患者にとって、術後疼痛と社会復帰は非常に重要である。
【研究の目的】
本研究は、学習曲線(外科医の習熟度を評価ツールの一つ)が腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術の術後疼痛強度に影響を及ぼす可能性があるという仮説について検証する。
【方法】
・デザイン:後ろ向きコホート研究
・対象術式:腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術(TAPP)
・使用するメッシュ:self-gripping surgical prosthesis(プログリップメッシュ?)
・一人の外科医修練医が87例のTAPPを行った
・Study Group:最初の30例
・Control Group:後半の57例
【結果】
・術後合併症や再発の有無に関して、両群に差はなかった。
・手術時間は、Control Groupで短かった(p = 0.0005)。
・術後1日目、患者は持続的で激しいタイプの痛みを訴えることがほとんどであった。
・Simple Numeric Pain Scaleを用いて算出した平均疼痛指数も同様の値であった。
・鎮痛薬の投与期間には有意差はなかった。
・疼痛強度はStudy Groupで高かったが、術者の習熟度と術後疼痛強度に有意な関係は認められなかった。
【結論】
TAPPは若手外科医にとっても安全な手技であり、適切な学習プログラムによって安全にマスターすることができる。
[COMMENT]
外科医の習熟度によって手術のアウトカムは大きく変わるのは事実です。
この研究では一人の外科医だけについてですが、術後疼痛をアウトカムとして、手技の熟練前と熟練後で比較しています。
この研究の大きなリミテーションは一人の外科医しか参加していない点です。研究に参加した外科医の鼠径ヘルニアに関する知識、鼠径部切開法の経験症例数、TAPPの助手経験数、は研究結果に大きな影響を与えます。
本来このような研究では
・複数の外科医をリクルート
・個人それぞれのラーニングカーブをプロット
・マルチレベルで比較
・感度解析で症例数を変更する
などの解析手法が必要と思われます。
デザインや解析の妥当性が高いと言えない研究かもしれまえんが、私は、手術時間以外に差はなかった、という事は注目に値すると感じました。
確かに術者によって手術結果は変わります。
しかし、その事実を容認するのは外科医として怠慢であるとも思います。
誰がやっても大きな差が出ないように手術器具、手術方法、周術期管理を改良していく事が外科医の使命だと思います。
低侵襲手術の普及は新たな解剖学的知見をもたらし、外科医全体のレベルを向上させたという実感があります。
この研究の結語にあるように、「TAPPは若手外科医にとっても安全な手技であり、適切な学習プログラムによって安全にマスターすることができる。」という意見には賛成です。